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最高裁判所第三小法廷 昭和50年(オ)1042号 判決

主文

原判決中、上告人に対し、金二八万三五〇〇円及びこれに対する昭和五〇年六月一四日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を超えて被上告人への支払を命じた部分を破棄し、右部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

その余の本件上告を棄却する。

前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人菊地一二の上告理由第二点について

所論指摘の主張はいわゆる間接事実に関する主張にすぎないから、原審が右主張について判断を示さなかつたことになんら所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第一点について

本件賃料が昭和四三年九月一日以降月額一万五五〇〇円に増額された旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。

ところで、原審は、右賃料は昭和四七年二月一日以降さらに月額二万円に増額された旨認定判断する。しかしながら、賃料増額請求による賃料増額の効果は、賃貸人の増額請求があつてはじめて、その請求額の範囲内で、かつ、客観的に相当とされた額について生ずるのであり、たとえ増額を相当とする事由が生じていたとしても、賃貸人の請求をまたずに賃料が当然に増額されるものではない。このことは、賃貸人がある時点において増額請求をし、賃貸人又は賃料債権者が右増額請求による増額賃料の確定又は支払を求める訴を提起し、その訴訟を追行している間にさらに増額を相当とする事由が生じた場合であつても同様であると解するのが、相当である(最高裁昭和四三年(オ)第一二七〇号同四四年四月一五日第三小法廷判決・裁判集民事九五号九七頁参照)。しかるに、原審が、昭和四七年二月一日以降の賃料について賃貸人から増額請求があつたことを確定しないまま、同日以降の賃料が月額二万円に増額されたと認定判断したのは、借家法七条の解釈、適用を誤つたものであり、ひいて原判決には理由不備の違法があるものといわなければならない。

原判決が、上告人に対し、昭和四三年九月一日以降同五〇年五月末日までの間の賃料月額一万五五〇〇円と上告人の支払つた月額一万二〇〇〇円との差額である月額三五〇〇円の割合による賃料未払額合計二八万三五〇〇円及びこれに対する昭和五〇年六月一四日から支払ずみにいたるまでの年五分の割合による遅延損害金の支払を命じたほか、昭和四七年二月一日以降同五〇年五月末日までの間については、賃料がさらに月額二万円に増額されたとして、その差額の支払をも命じていることが明らかである、前述したところにより、原判決中前記二八万三五〇〇円及びこれに対する遅延損害金を超えて支払を命じた部分は違法であつて破棄を免れず、右破棄部分について、更に昭和四七年二月一日以降の賃料に関して賃貸人から増額請求がされたかどうか、その相当額等について審理を尽くさせるため、右部分につき本件を原審に差し戻し、その余の上告を棄却するのを相当とする。

よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 環 昌一 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕)

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